中国旅行 4日目 八仙庵と書院門

僕の乗った高速鉄道「動車」は、最高240キロで走るかなり速いタイプの列車だ。動車は、発車のアナウンスなどもなしに音もなく定刻通り22時に発車した。そういえば、空港からのリニアモーターカーも、アナウンスなく走り出したが、逆に、何度も乗っている地下鉄は、中国語と英語でアナウンスしてくれる。どうやら中国では、速い電車ほど乗客に親切でないらしい。

発車から40分ほどして、一つ目の駅に着いた。そしたら、男性がひとり入ってきた。だがコンパートメントは6人が定員なので、もう満員のはずである(小さい子どもは数えない)。だがその彼は、自分のチケットにここだと書いてあると言い張る。彼は僕たちのチケットを調べはじめた。そうしたら何でもない、僕が乗る号車を一つ間違えていたのだった。

どうせ寝心地が悪くてよく寝られないだろうと思っていたが、2段ベッドの上の段に1人で陣取れて、十分な時間眠ることができた。途中何回か目を覚ましたけれども、朝7時過ぎまで寝ていたみたいだ。25000歩歩いた昨日の疲れも残っていない。

空気汚染のせいか、食べ物のせいか、疲れのせいか知らないけれども、口の粘膜が少し荒れている。

列車はほぼ定刻通り、むしろ定刻より少し早い午前8時34分に西安北駅に到着した。ここから地下鉄を乗り継いで、八仙庵の骨董市へと向かう。八仙庵の骨董市は、聞いたところによると日曜日の午前中しか開いていないらしい。

最寄の朝陽門駅から地上に出て、西安を初めて見て感じた印象は、ホコリっぽい、だった。道は舗装されているとは言えデコボコだし、工事もそこここでやっている。それを言うなら、タイや上海も同じような感じではだったが、極めつけは、PM2.5がひどいと言われている上海ではむしろ気にならなかった空気の濁りが、西安でひどいのだ。西安は古い建物が残っている街とは言え、ビルもバンバン建っていて車もガンガン走っている大都会である。この霞が化学物質なのか土埃なのか、この際どっちでもいいが、これが音に聞く中国の大気汚染か、と 、重いスーツケースを引っ張りながら感じ入った。

西安の中心は、タイのチェンマイがお堀で囲まれているのと似て、南北3キロ、東西5キロくらいの城壁に囲まれたエリアである。八仙庵はその城壁の東の外側に位置し、にぎやかさはない。骨董市を見つけるそのときまで、そんなのをやっている雰囲気なんて微塵もなく、不安になるほどだ。

見つけてみると、狭い路地の歩道やそこらに、ずらっと骨董商が店を開いている。多いのは、装身具、石(玉)、陶器、金属器、古書で、本物ならば超お宝というものもある。中国石器時代の陶器とか2000年前の銅鏡とかが普通にポンと置いてあったら、度肝を抜かれるだろう。

ここに来るなら、よっぽど目利きに自信があるか、ニセモノと半分わかっていて物色するかの、どちらかなんじゃないか。僕には骨董趣味はないので変なものには手を出そうとは思わない。ここに来たかったのは、文物を自分の目で見て目を肥やすのがひとつ、書道関係で実用的になりそうなものがあったらちょっと買ってみようというのがひとつだ。

良いものはもうとっくにコレクターの手に収まっているとしても、意外と「これは」というものがなかった。

それでも、古本と一緒に売られていた紙切れを買った。陳子平というひとが1996年に書いた短い文章で、内容も、この陳子平という人物も知らないが、彼の筆跡が美しかったのだ。硬筆書法に優れていたことが分かる。

最初10元と言われたが、3元はだめかと言ったら5元までまけた。お金を渡すときに、店番のおっさんがお前はどこの人かと聞いてきたから、韓国人だといったら、遠いところからわざわざ若者がやって来たおまけなのだろう、4元にしてくれた。

これ以降、買い物のときにどこの人かと聞かれたら、韓国人というようにした。日本人と答えたら足元をみられるような気がした。

城壁の南の真ん中・永寧門付近の、古い建物を改修したらしく雰囲気が抜群のホステルにチェックインし、書院門に行った。書院門から碑林博物館までの数百メートルには、書道用具を売る店が立ち並んでいる。

行って感動した。

上海の福州路に毛が生えた程度だろうかと思っていたら、とんでもない、通りの店がことごとく書道用品店で、膨大な量の紙、筆、印材、表装、本などなどを売っている。道の真ん中にも、隙間なく屋台が出ていて、書道用具はもちろん彫刻・瓢箪・剪紙などの飾り物を売っている。ときどき人前で書をしたためているおじさんもいて、その周りには人だかりができる。見物人はおじさん・おじいさんだけでなく、青年や女性もまじっている。中国人の書への関心の強さの表れだろうか。

とにかくここはすごい。さすが唐をはじめ歴代の多くの王朝が都を置いた街だけある。文化の水準が段違いだ。ここだけでも1日を潰して来る価値がある。

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