『知的複眼思考法』をICU生に捧ぐ 批判的思考とは?

ICUに入学すると、クリティカル・シンキングという言葉を何度も何度も聞くことになる。クリティカル・シンキングとは、批判的思考、つまり物事を紋切り型ではなく、多面的に捉える、情報を鵜呑みにせず、客観的に判断する、といった意味である。新入生は、英語の授業でいくつかのテキストを読んだり、講義を聞いたり、小論文を書いたりしながら、批判的思考を身につけていく。

中でも、入学直後の第1学期に読んだJ. Meilandの「College Thinking」という本では、高校の学びと大学の学びとの違いから始まって、大学で学ぶとはどういうことかが述べられている。新入生は1学期間かけてそのうちの数章を読み込み、批判的思考の基礎を養う。

ただ、批判的思考批判的思考と、学生も先生も事あるごとに繰り返すが、実際のところ、その意味するところが曖昧なのは否めない。いや、言葉の意味は知っていても、それならば何をすることが批判的思考と言えるのか、という実践的なことは、少なくとも明示的・体系的には学んでこなかった。

昨日読み終えた『知的複眼思考法』では、批判的に考えるとはどういうことなのかを、実践的かつ体系的に解説している。

苅谷剛彦(1996)『知的複眼思考法』講談社
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫) [文庫] / 苅谷 剛彦 (著); 講談社 (刊)

筆者は、常識で物事を割り切る凝り固まった思考、すなわち「単眼思考」に対して、問題を相対化し、その多面性に気づく思考を「複眼思考」と名づけている。この複眼思考が、ICUの言う批判的思考に対応する。

本書は、ICUの目指す学びと軌を一にしている。理由は2つ。(1)私たちが入学直後に読んだあのMeilandと、全く同じことを言っているのだ。Meilandのごく最初の方では、大学の授業で学んだ個々の知識は忘れても構わない、大事なのは、そこで考え方を学んだかどうかだ、ということが繰り返し述べられている。本書でも、著者のアメリカでの大学院時代を振り返って、予習に読まされた膨大な文献の内容は忘れてしまったにもかかわらず、「考える力――あるいは、考え方のさまざまなパターンを身につけた(37ページ)」と明かしている。そしてもう一つの何よりの証拠、(2)ICU図書館で借りた本書は、かなりボロボロであった。

けれども、本書がMeilandより優れているのは、日本語で書かれtその具体性である。第1章では、批判的な読み方(著者と対等な立場に立つ)。第2章では、批判的な書き方(議論のしかた)。第3章では、問いの立て方(「なぜ」の重要性)。そして第4章では、まとめとして、複眼的な思考のしかたを紹介する。それぞれのステップについて、明確に、そして多くの具体例を用いて説明しているため、応用が容易なのである。

本書の読者は大学生を想定しているだろうが、大学のみならず、ビジネスにも必須のスキルが詰まっている。

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