寿岳文章『書物の世界』

寿岳文章(1973)『書物の世界』出版ニュース社

英文学者で書誌学者である著者が、戦後の書物の姿のみすぼらしいのを憂えて著した書物論。私が読んだのは1973年の改訂版だが、初版は1949年。本もまともに出版できぬ極貧の時代だったのだ。だが本書は、おそらくはこの改訂版も、装幀、組版、字体など、すべて著者の注文という。読みながらときおり立ち止まって本を眺め、著者の工芸としての書物へのこだわりを感じ取ろうと努めた。物としてはもちろん、読み物としても著者の信念がそこここに染み渡っている。言葉が心に響く。しっとりと。書物の世界に、もっと入っていってみたいと思わせる。

本書はムサビの図書館・美術館のスタッフの方が勧めていて、見つけた(RECOMAL #063)。本のあり方を考えさせられる。出版から60年以上経った、今でも。

コメント

このブログの人気の投稿

「書道八段」は大した称号じゃない

「55個の母音を持つ言語」というギネス記録は間違いである

「お腹と背中がくっつくぞ」の勘違い