「ネーミングの言語学」に留まらない良書

ああ、どうしよう。8月に入ってからというもの、本しか読んでいない。毎日ICU図書館を往復だ…。これでは異様なまでの自堕落じゃないか。危機感を感じ、昨日インターネットでアルバイトを探してみましたが、来学期は毎日まんべんなく授業が入る予定なので、長期で続けるのは難しいですし、夏休み(あと1か月)だけのバイトって少ないですし…。ああ、どうしよう。

とにかく、そんな危機感を募らせながら、またもや本を1冊読み終えました。これも前読んだのと同じく、長らく読みたかった本です。あ、でもそういえば、実は1年以上前に新宿の紀伊國屋で眺めて、思ったより難しそうだと思った本です。

ネーミングの言語学―ハリー・ポッターからドラゴンボールまで (開拓社言語・文化選書) [単行本] / 窪薗 晴夫 (著); 開拓社 (刊)



しかし読んでみて、その心配は無用だったことがわかりました。確かに、本書はおそらく厳密に論文のフォーマットで書かれていたり、ぱっと見難しそうな図も出てきたりと、堅い印象を受けます。が、本書のサブタイトルにもあるように、メディア内の有名人や、日常の言葉などを例にとっているので親しみやすく、そして何より、――文体は柔らかいとは言い難いにしろ――文章が懇切丁寧! どんな読者にも疑問を抱かせずに十分理解してもらうために、難しい言葉は使わず、説明は十分に、例も豊富に用い、大事なところは繰り返して、そして論理的に本書が進められていきます。少し説明や繰り返しがしつこいと感じないでもありませんが、それも御愛嬌。こんな模範的な文章で書かれた一般書を私は他に知らず、顔も知らない著者に好印象さえ持ったくらいでした。

それで内容の方ですが、まず「ネーミングの言語学」というタイトルを聞いて思い浮かぶ内容と言ったら、アニメのキャラクター名や会社名など、固有名詞のネーミングに見られる規則や技法の解明、といったところでしょうか。私もそういう予想をしていました。しかし実は、それは主たる内容の1つに過ぎず、想像していた内容は、特に技法については、本の最後、第5章にまとめられています。他の内容はというと、英語に見られる「頭韻」というリズム文化を皮切りに、日本語と英語の持つリズムの違いと共通点を明らかにするというものです。単に名前の由来や分析を書き連ねていくような単調なものではありません。

私は、この本に出会えたことを幸運に思います。英語を見る目が変わりました(もちろん日本語も)。というのも、あの第4章です。第4章の、リズムに基づいた英語の分析が、全く初めて出会うもので、理にかなっていて、覚えるしかない英語の面倒くさい語法の例外のいくつかが、実はある必然性のあるものだと知ったときには、まさに目からうろこが落ち、衝撃を受けました。なぜa half appleではなくhalf an appleなのか、なぜenough goodでなくてgood enoughなのか、本書が明らかにします。

若干論拠に乏しいというところが本書全体に1つ2つあった気もします。が、特にこの第4章は英語に苦しむ高校生にぜひ読んでもらいたいです。例外が多いことに対して覚えた怒りが、少し収まるくらいの効果はあります。それにこれは、生徒に英語を教えるのにも役立つと思います。私が高校生に英語を教えるとしたら、ぜひこれを教えたいと思いました。口だけで説明するのはたぶん難しいでしょうけど。

買って、もう一度読みたいと強く思わせる良書でした。

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