軽井沢の山奥で3泊4日の数学合宿をした話

ICUの数学専攻の先輩方は、毎年夏休みに3泊4日の数学セミナーなるものを開いているそうです。

3泊4日の数学漬け。数学が好きな私でさえ、こりゃどうかしていると思ったくらいですから、はたから見たら気でもふれたかと思うような異様な行事です。

ICUの3つのキャンパスのうち、宿泊目的にしか使われなくて、とても影が薄い軽井沢キャンパスと那須キャンパスのどちらかで、これが行われるそうですが、今年はわが故郷長野県の有名な避暑地、軽井沢の方で催されました。その理由の一つは、那須キャンパスが震災により利用不可能となっているところにあります。

ちなみにICUの学内誌”The Weekly GIANTS”による(ジョークを多分に含んだ)「ICU用語辞典」によると、那須/軽井沢キャンパスは、「行きし者のうち、帰りし者はみな黙して語らず。」だそうです。

この、セミナーという名の修行でやることはと言えば、1冊の本を分割して参加者に割り当て、割り当てられたところをみんなの前で発表する。そう、それだけと言えばそれだけ。

今年やる本はアンドレ・ヴェイユ(片山孝次、 田中茂、丹羽敏雄、長岡一昭訳)(2010)『初学者のための整数論』 筑摩書房。私の割り当てられたところは、互いに素に関するところです。



私が本格的に準備を始めたのは、遅ればせながら出発日の前日でした。初めて本腰を入れて読んでみたのですが、とても難しい…。どうしてそうなるのかが分からない。この日はICUで事前勉強会があったので、4年生の先輩にこれまでになく長時間解説してもらって、やっとそれなりの理解をできたくらいでした。

この、合宿という名の拘束の期間は、24日から27日まででした。

24日(水)

バスを使い、電車を乗り換え、池袋に着いたらそこから高速バスに乗り、3時間かけて軽井沢駅まで行く。さらにそこから2駅の信濃追分駅で降りたら、予想をはるかに上回る田舎道を、予想をはるかに上回る距離歩いた森の中にぬっと現れるのが、三美荘と言われるICUの施設です。



三美荘の直前はこんな山道になる。



どうやら三美荘というのは建物の名前ではないようで、建物自体に三美荘という言葉は一度たりとも発見し得ませんでした。



このプレートが無ければ、ただの古めの別荘です。ここが大学のキャンパスだとは、絶対誰にもわかりません

参加者は、1年生から院生までの発表者25人くらいと、先生、非常勤講師から他の大学の院生まで合わせて30人くらいの所帯でした。

早めの夕食(おなじみのカレー)をとった後、早速セミナーが始まりました。そこで私は、この合宿の実際に触れショックを受けました。3年生の先輩の発表が始まった途端、非常勤講師の先生が、引き算の定義のようなところでやや厳密性に欠ける記述をズバッと指摘。他のオーディエンスも加わっての小議論になりました。(゚Д゚)ガクガクブルブル ちなみに私はこの指摘の意味がほとんど分かりませんでした。(´・ω・`)

その後も、次々と質問が飛び出し、1人20分という予定の発表時間を大きく超え、終えるのに1時間はかかったと思います。経験豊富な先輩も、これにはたじたじ。スケジュールが予定通り進むのかという心配に加え、1年生の私が自分のアサインメント(割り当て)を遂行できるのかという不安に駆られました。私の発表は、なんとこの日の最後でした。

もう夜の10時くらいだったでしょうか、私の番が回ってきました。結果は、幸いにして想定の範囲内。ただし、かかった時間は、もちろん予定の範囲外でした。まだ勉強不足の1年生なので、発表が少しくらい稚拙なのは御愛嬌ってことで。

私の発表で今日のスケジュールは終わりました。この後は、翌日以降に発表する人たちの多くが夜遅くまで準備をしていました。初日で発表を終えてしまって、私はラッキーでした。就寝は、みんなよりは早めの2時半。

25日(木)

7:40に起床。朝食はセルフでした。すでに何人かが起きていました。9時から今日のセミナーが始まりました。

セミナーについては詳しいことは書きません。もはや1人1時間がスタンダードになっていて、本当に食事以外は1日中数学でした。異様でした。



夕飯はBBQでしたぞ。

それでも深夜にセミナーから解放されると、みんな活気を取り戻しました。三美荘に、過去の先輩が残したと思しき将棋セットがあり、私も一局打たせてもらいました。弱いので負けましたけどね。(´・ω・`)



環境意識の高い先輩だったのでしょうか。なんと、駒が段ボール製です。パッと見、駒の向きがわかりません。字はまるで女の子が書いたように愛くるしいです。特に私は左下の「飛」の字が好きです。

この日の就寝は2:30。みんなに比べたら早い方です。

26日(金)

昨日と同じく7:40に起床。ですが昨日と違い、1階に下りて行っても、ソファで寝ていた先輩以外、誰もいませんでした。昨晩みなさん夜更ししていたようです。

それでもセミナーは9時から始まる!

数学、数学、数学、数学、数学…

昨日の夜の部から、完全に私の理解の範疇を超えていたので、わけのわからない発表を数時間聞く羽目になりました。

数学、数学、数学、数学、数学…

眠い!!

5時間睡眠は私にはきつい。

数学、数学、数学、数学、数学…

2時間発表する先輩もいました。このときが眠気のピークでした。

昼食、そばとそうめん。

テキストも終わりに近づいてきました。午後には院生の先輩の発表がありましたが、このままでは今日中にテキストが終わりそうにないという懸念から、彼は証明抜きで、定理と定義のみの発表になりました。でもその方がぽんぽん進んで眠くなりませんでした。先輩はしゃべりが上手で、例もあって、本当はすごく難しいところなんですけど(平方剰余とか、ルジャンドル記号とかよくわからん。)、私にもけっこう理解できました。

夕食の後は最後の発表でした。その先輩の話も面白くて、それなりに理解できました。私もこの2人の発表を見習いたいものです。

さあ、これで3日間に及ぶセミナーは終わった。打ち上げもした。将棋もリベンジした。勝った! (*・ω・)



上はこれまた過去の粋な先輩が残していった素晴らしい言葉で、10年くらい(?)壁に貼られたままだそうです。

みんな解放感でいっぱいでした。ですが私は、寝不足だけは嫌だったので一足先に3時に就寝。

27日(土)

この日も7:40分に起床、と言いたいところですが、3年の先輩の「起きてくださーい」の声で起きました。時刻はなんと8:50。9:00までに朝食をとっていなければならなかったのに。('Д⊂

昨日の残りのカルボナーラを急いで頂き、掃除をし、10時15分、3泊4日お世話になった三美荘にお別れです。

今年の合宿のまとめ:テキストがやけに難しかった。(これは去年のテキストが簡単すぎたことの反動らしい。)

最後に、軽井沢駅からの高速バス出発までに数時間あったので、先輩ら7人と軽井沢のアウトレット付近をぶらぶらしたこともここに書いておかなければなりますまい。

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