安野光雅のコンピュータ絵本「わが友 石頭計算機」

なんとこの年になって絵本である。しかしコンピュータの絵本だ。たぶん子供対象の絵本とは考えていないだろう。

安野光雅著、犬伏茂之監修(1973)『わが友石頭計算機』ダイヤモンド社

わが友石頭計算機 (1973年) [大型本] / 安野 光雅 (著); 犬伏 茂之 (監修); ダイヤモンド社 (刊)

先日の「コンピュータの名著・古典100冊」に紹介されていた本で、「本書は出版から30年経った今でも、コンピュータの原理を視覚的に説明する唯一の本である」(129ページ)と、大絶賛であった。本書が扱うのは2進法、四則演算、プログラミングなどと、思ったほど目新しいことはなかった。「100冊」を読んで私が期待しすぎたか。

しかし、本書が名著である理由は、その内容だけでなはい。文と絵も第一級であった。

絵本作家安野光雅による文は、コンピュータを扱う内容にもかかわらず、読むものをおとぎ話の世界に引き込むようで、ちゃっかりユーモアも入れてくるところも抜け目ない。

そして絵も、並の挿絵とは一線も二線も画していた。西洋風の絵は細やかで装飾的で美しく、中世ヨーロッパの文献を読んでいる気分になった。出てくる人物もすべて数世紀前の西洋の庶民、王様、聖職者などだったので、挿絵は原著のものだとずっと思っていたのだが、これも安野氏の手によるものとあるではないか。

本書は、ストーン・ブレイン氏(すごい名前…)によるMy good friend -- THE STONE BRAIN COMPUTERの翻訳という形をとっているが、安野氏個人の昔話なども入っており、どこまでが原著の内容で、どこからが安野氏の創作なのかが分からない。それに、ブレイン氏による「序」の日付が1691年だったり(誤植ではないと思われる)、一部ページが破れていたためにほぼ2ページにわたり翻訳なし、などと、いろいろ不可解なところが多い。

しかしそのおかげで、大昔のヨーロッパの本を読んだようなと言ったらいいのか、不思議な気持ちになりながら読むことができた。贅沢な53ページであった。

追記:以上を書きながらブレイン氏の原著を探したら、どういうわけか見つからない。翻訳というのもフィクションだったのか。これは一本とられた。Stone Brainなんて変な名前だと思った。

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