2013年1月15日火曜日

言語学の冬:Mrs. Byrne's Dictionary by J. H. Byrne

年末年始は、言語学で。4冊目(?)。

すごく面白い本を手に入れた。名付けて『バーン夫人の珍語・難語・奇語辞典』

J. H. Byrne. (1974). Mrs. Byrne's Dictionary of Unusual, Obscure, and Preposterous Words. Citadel.

8か月前に、英語は単語に接辞をくっ付けて、新しい単語を簡単に作りだす(派生させる)言語だと書いた。また英語は、(日本語と同じで)外来語をバンバンと借り入れる言語でもある。英語の使用頻度上位2万語のうち、実に60%が外来語なのだ。特に11世紀以降のフランス語の影響は計り知れない
。派生主義と借用主義が、英語語彙の最たる特徴だ。

そんな訳で、英語の単語数はきわめて多い。英語辞書の最高権威、Oxford English Dictionaryの収録項目数は、第2版で61万を超える。(でも日本語も頑張っていて、日本国語大辞典第2版で50万項目もあるとは。)「だから英語はすばらしい」とかいう感情は抜きにしても、その語彙の豊かさには瞠目せざるを得ない。

『バーン夫人』の辞典は、そうした英語の性格を如実に語っていると言えよう。

本辞書に収められた約6000の語はどれも、主要な英語辞書に1回以上載っているということなので、すべてれっきとした単語である。せっかくなので、本辞典をパラパラ見てみて面白かったのは、例えば、

bletonism 名 地下水を感知するとされる能力
podobromhidrosis 名 臭い足

この辞典と関連して、昔読んだ『ダーリンの頭ン中』の一話を思い出す。今手元にないのだが、「猫愛好」とか「接吻恐怖症」という意味の単語が紹介されていた。

小栗左多里、トニー・ラズロ(2005)『ダーリンの頭ン中 英語と語学』メディアファクトリー

さて、載っている単語に自分の知っているのがあると、少し嬉しい。と同時に、「編者はこれ知らなかったのかなー」と、編者と自分との知識をちょっと比較できたりもする。taxonomyは何度か見たことがあるし、apocopeやsyncopeやhaplologyは音韻論の用語だ。carrellはICU図書館にある。

読みながら一つ疑問を持った。日本語でこの手の辞書が作れるか? どんな語が入るだろうか。言語学上、日本語には和語、漢語、外来語、擬態語・擬音語の4つの「層」があるとされているが、外来語を入れるのはずるい気がするし、擬態語・擬音語は意味がたいてい明らかなので、ほとんど無さそうだ。とすると和語と漢語だが、漢語には難語はいくらでもある。「漢検」の準1級や1級の問題集を開けば、ほとんどが難語だ。和語も、難しい語は多いが、古語になってしまうのではないか。また日本語の性格上、接辞があまり発達していないので、一語で「地下水を感知するとされる能力」とか複雑な事象を表すのは難しい。だから珍語は少ない。『バーン夫人』の辞典には医学用語、化学用語も多いが、日本からはほとんど学問が発祥していないのも大きい。

だから、日本語の難語辞典は結局、難読漢字辞典とほとんど変わらないと予想。

――
1 Amazonで注文したら、アメリカからの配送にほぼ1か月かかって、ちょうどこの時期に届いただけで、この年末年始シリーズに加える気はなかった。強いて言えば語彙論か形態論か辞書学という分野に入る。
2 この辞典を見つけた経路は、j.ktamura.comj.hkmurakami.comen.wikipedia.org
3 http://k-tan.staba.jp/home/dic/obscure.htm:私が見つけた中で本辞典を言及している唯一の日本語のサイト。
4 V. Fromkin, R. Rodman, and N. M. Hyams. (2011). An Introduction to Language, Ninth Edition. Wadsworthの505ページ参照
5 Oxford English Dictionary第2版のPreface xxiiiページ参照

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