2012年12月23日日曜日

ダード・ハンター『和紙のすばらしさ』久米康生訳

ICU図書館に10冊程度開架されている和紙関連の本を見てみると、ほとんどが久米康生という方の手によるものである。久米氏は1973年に毎日新聞社編『手漉和紙大鑑』の編集に関わって以来、和紙研究を続け、1989年に立ち上げられた和紙文化研究会の代表も務めたそうだ。本書は久米氏による訳書である。(彼はたぶん翻訳家ではないが。)

ダード・ハンター(久米康生訳)(2009)『和紙のすばらしさ―日本・韓国・中国の製紙行脚』勉誠出版
Dard Hunter. (1936). A Papermaking Pilgrimage to Japan, Korea and China. Pynson Printer

和紙のすばらしさ 日本・韓国・中国の製紙行脚 [単行本] / ダード・ハンター (著); 久米康生 (翻訳); 勉誠出版 (刊)

著者のダード・ハンター(Dard Hunter 1886-1966)は紙史研究の大家らしい。新聞印刷の業者を父に持ち、オーストリアの印刷学校に留学したのち、ロンドンでも働くなどなどと筋金入りだ。アメリカに帰国した後には自分の工房を建て、自前の紙と活字で自ら著した本を出版する工芸家となった。その内容はヨーロッパ、アジア、アフリカの40か国以上の紙郷を渡り歩いて得た、膨大な資料に基づいている。

本書はハンターが東アジアでの紙作りをこの目で見るべく、1933年に日本、朝鮮、中国を現地調査したときの記録である。中でも日本の記述がダントツに多いのは、彼が日本の製紙の技術と品質を「驚嘆に値するすばらしい工芸」(本書2ページ)と絶賛し、尊敬するからである。訳者あとがきにその原文が紹介されている。

It is not an exaggeration to state that the present-day handmade papers of Japan are the technical marvel of the entire papermakers' craft.(128ページ)

対して、「現代中国の手漉き紙については、ほとんど感動するものはない」(63ページ)とまで酷評しているのには笑った。1933年だからこそ言えた文句である。

そう、1933年なのだ。太平洋戦争も始まらない時代、朝鮮半島が分裂する前の時代、日本は満州など海外進出に新進気鋭だった時代である。(ハンターが逮捕されず無事旅を終えられたのも、日本の紙メーカーと紙研究者の協力のおかげであった。)彼が、西は愛媛から東は埼玉までの行脚を事細かに書き留めてくれたおかげで、本書は当時の紙事情を知る資料としてだけでなく、もう一つの価値を持つと私は感じた。彼が道すがら見聞した古き日本の風習、作法、建築、食事、交通などを細かに伝える読み物としても、十分読むに値するのだ。

自動車で道無き道を走り、時には歩くはめになる。工房を訪れるたびに、取っ手のないカップに入った緑茶で慇懃なもてなしを受け、宴会の席では足を組んで長時間座ることに閉口する。当時の日本を知らない私には、面白く、新鮮である。2つの面で勉強になる。

・Dard Hunter Studios: http://www.dardhunter.com/
・Friends of Dard Hunter: http://www.friendsofdardhunter.org/
・ユタ大学のJ. Willard Marriott Libraryは、ハンターの著書をデジタル画像化し、自由に閲覧できるようにしている。原著巻末には彼が行脚で収集した51の紙標本が添付されているので、それだけでも面白い。(http://content.lib.utah.edu/cdm/landingpage/collection/DardHunter

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