英語の語彙の豊富さについて:preantepenultimateという単語
昨日の音韻論の授業で、この分野でしか使われないであろう難しい英単語に出会った。
preantepenultimateという単語だ。「最後から4番目以前の音節」という意味だ。
まず、この単語が出てきた文脈を説明しよう。チムウィーニ語(バンツー諸語。ソマリア南部のある町で話される。Wikipedia英語版で解説あり。)の面白い音韻規則の話だ。チムウィーニ語では、長母音と短母音の区別がある。日本語で[ato](跡)と[aːto](アート)が区別されるように、チムウィーニ語でも例えば[xkuːla](引き抜く)と[xkula](育つ)が区別される。
しかし、このような長母音(仮にV+)を含む単語にいくつか接尾辞が付いて、V+を含む音節が後ろから数えて4個目以前になると、そのV+が短母音化する。これをPreantepenultimate Shortening(名付けて「最後から数えて4番目以前の音節の長母音を短くしろルール」)という(Hays)。
例えば、[dʒoːhari](宝石)に接尾辞/-je/が付くと、[dʒoharije]という発音になる。後ろから数えて4つ目の音節[dʒoː]が[dʒo]になった。ネイティブスピーカーなら決して[dʒoːharije]と言わない。
preantepenultimateは、語幹ultimateにたくさん接頭辞が付いてできた語だ。形態素で分けて書くと、pre-ante-pen-ultimateだ。
ultimate=最後の音節
penultimate=最後から2番目の音節
antepenultimate=最後から3番目の音節
preantepenultimate=最後から4番目以前の音節
というわけだ。
これは辞書に載っているのだろうかと思い、見出し英単語数414万を誇るWeblioで調べてみたら、しっかり載っていた。しかも、preantepenultimateのさらに一段上、propreantepenultimate(最後から5番目以前の音節)という語まで見つけた。21文字の長大な単語である。
英語は語彙が非常に豊富だとよく言われるが、preantepenultimateは日本語では長ったらしい説明を要する概念を、一語で表しているよい例だ。そもそも日本語に相当する概念が無いために訳が簡潔に行かないのもあるが(I miss youのmissなど)、例えばpre-lingualという語のように、英語では接辞を付けることで一語で済ましている一方、日本語では「言語獲得以前の」と複合語、もしくは数語の説明がいるものが多い。(中正を期して言うと、例えばinternationalization(inter-nation-al-iz(e)-ation)は日本語でも「国際化」一語である。)
英語の語彙の多さの主な要因の一つは、この接辞の豊富さにあるのだろう。(一方日本語は、照らしあわせて考えてみると、複合語が発達している気がする。)
******
こんなことまで書く予定は無かったのに、書いているうちにいろいろ思い浮かんできて、英語の語彙の多さについての新しい推察まで思い至った。ともかく、ある分野でしか使われない面白い意味の単語、あったら教えて下さい。
preantepenultimateという単語が面白かったから本記事を書いたが、以降こういう類の「大学での学びジャーナル」をたまに書き留めていくのもよい。
参考:Hays, Bruce. Introductory Phonology. Malden: Wiley-Blackwell, 2009. Print. (Pp.148-49)
preantepenultimateという単語だ。「最後から4番目以前の音節」という意味だ。
まず、この単語が出てきた文脈を説明しよう。チムウィーニ語(バンツー諸語。ソマリア南部のある町で話される。Wikipedia英語版で解説あり。)の面白い音韻規則の話だ。チムウィーニ語では、長母音と短母音の区別がある。日本語で[ato](跡)と[aːto](アート)が区別されるように、チムウィーニ語でも例えば[xkuːla](引き抜く)と[xkula](育つ)が区別される。
しかし、このような長母音(仮にV+)を含む単語にいくつか接尾辞が付いて、V+を含む音節が後ろから数えて4個目以前になると、そのV+が短母音化する。これをPreantepenultimate Shortening(名付けて「最後から数えて4番目以前の音節の長母音を短くしろルール」)という(Hays)。
例えば、[dʒoːhari](宝石)に接尾辞/-je/が付くと、[dʒoharije]という発音になる。後ろから数えて4つ目の音節[dʒoː]が[dʒo]になった。ネイティブスピーカーなら決して[dʒoːharije]と言わない。
preantepenultimateは、語幹ultimateにたくさん接頭辞が付いてできた語だ。形態素で分けて書くと、pre-ante-pen-ultimateだ。
ultimate=最後の音節
penultimate=最後から2番目の音節
antepenultimate=最後から3番目の音節
preantepenultimate=最後から4番目以前の音節
というわけだ。
これは辞書に載っているのだろうかと思い、見出し英単語数414万を誇るWeblioで調べてみたら、しっかり載っていた。しかも、preantepenultimateのさらに一段上、propreantepenultimate(最後から5番目以前の音節)という語まで見つけた。21文字の長大な単語である。
英語は語彙が非常に豊富だとよく言われるが、preantepenultimateは日本語では長ったらしい説明を要する概念を、一語で表しているよい例だ。そもそも日本語に相当する概念が無いために訳が簡潔に行かないのもあるが(I miss youのmissなど)、例えばpre-lingualという語のように、英語では接辞を付けることで一語で済ましている一方、日本語では「言語獲得以前の」と複合語、もしくは数語の説明がいるものが多い。(中正を期して言うと、例えばinternationalization(inter-nation-al-iz(e)-ation)は日本語でも「国際化」一語である。)
英語の語彙の多さの主な要因の一つは、この接辞の豊富さにあるのだろう。(一方日本語は、照らしあわせて考えてみると、複合語が発達している気がする。)
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こんなことまで書く予定は無かったのに、書いているうちにいろいろ思い浮かんできて、英語の語彙の多さについての新しい推察まで思い至った。ともかく、ある分野でしか使われない面白い意味の単語、あったら教えて下さい。
preantepenultimateという単語が面白かったから本記事を書いたが、以降こういう類の「大学での学びジャーナル」をたまに書き留めていくのもよい。
参考:Hays, Bruce. Introductory Phonology. Malden: Wiley-Blackwell, 2009. Print. (Pp.148-49)
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