2014年12月24日水曜日

韻律音韻論のツリーを描くのは難しい メモ

メモ。言語学のやや専門的な内容。音声学、音韻論、形態論で論文を書く学生や院生が対象。

書いておかないと、どうせいつか忘れてしまうし、また言語学で論文を書く方にとっても以下の内容は有用と考えたので、書きとどめておく。この記事で私が伝えたいメッセージは2つ。(1)卒業論文を書いていて思った、音韻論の構造木を美しく描くのって、難しい。(2)構造木を美しく書きたいと願う学生のみなさんは、時間のある今のうちにTeXをかじっておくといいのかもしれまん。

キーワード:韻律音韻論 統語論 ツリー 構造木 描画 TeX
Keywords: autosegmental phonology, tree, drawer, generator, TeX

1 構造木とは

言語学で構造木(樹形図、ツリー)を一番使うのは、統語論においてだ。たとえば、図1のように文を分析する場合だ。

図1 I like coffee

しかし、韻律音韻論や形態論においても、統語論ほど複雑ではないものの、構造木は頻繁に登場する。典型的には、音節構造の記述や、単語の内部構造の階層を表示する場合である。

図2 音節構造とinternationalizationの階層構造

これを描くのが、まっこと面倒くさいのである。図形描画に関しては一般的なマイクロソフトのワードの知識くらいしかない私にとって、ちまちまちまちま直線を組み合わせて枝を作り、適当に文字のスペーシングをして作るのが関の山なのだ。学期末のエッセイのレベルだったらそれで十分だが、やはりそうして作った構造木は美しいとは言い難い。美しさは妥協するとしても、何より煩わしいのは、時間が掛かる上にちょっといじっただけですぐ構成が崩れてしまうことだ。ちなみに図2は、Google DriveのDrawingを使った。図2のようにいっそ画像にしてしまえばレイアウトの崩れる心配はないが、文字の部分は書き直しができないし、フォントサイズの統一も面倒だ。

2 オンラインサービスの限界

ブラウザ上で構造木を自動で描いてくれるサービスがいくつもある。「syntax tree drawer」などと検索すればいくつもヒットする。しかし、見つかるのはもっぱら統語論用のジェネレーターで、音韻論の構造木はそれらで対処しきれないものがある。例えば私が少し調べた中で使いやすかったのはRSyntaxTreeSyntactic Tree Generatorだ。ブラウザ上ではなく、ソフトをダウンロードしてローカルで使うものもある。けれども、どちらにせよ統語論用のプログラムなので、やはり音韻論のものを描こうとすると、私の望む構造木は、比較的シンプルなものであっても作ることはできない。

例えば図3と図4は、RSyntaxTreeを使って書いた。音節量という概念の図解である。(「σ」は音節、「μ」はモーラのこと。)この2つを比べたら、音素の行(tier)の高さが揃っている図3の方が図として好ましいが、私が欲しいのは、どちらとも少し違い、もう少し理論的厳密さをもった図なのである。図4の「t」に繋がる線を、下まで伸ばしたいのである。そういう細かい調整を、オンラインサービスに求めることはできない。

図3 まあまあの例

図4 いただけない例


3 TeXなるもの

TeXという組版処理ソフトがある。私には全くちんぷんかんぷんなのだが、がちゃがちゃと命令を組み合わせて美しい文字列を出力するものなのだということはわかる。調べてみると、TeXを利用すれば言語学で使う構造木も最高に美しく描けるようなのだ。一人前の研究者の論文レベルになると、TeXを使っているのだと思う。でも、もう私にはいまさらTeXを勉強している時間がない。時間のある大学2、3年生のときに少しでもかじっていれば、もう少しカッコいい論文が書けたのにと、少し後悔している。

少し調べてみたところではノースイースタン大学の先生が作ったpst-asrというTeXのパッケージがツリーを描くのに特化しているらしい。また早稲田大学の乙黒研究室のサイトに、TeXでツリーを描くためのパッケージがいくつもあげられている。私にはどれがいいのかわからないが、意欲ある皆様の役に立つことを願い、紹介だけしておきます。

2014年12月23日火曜日

案外便利な中国サイト 「中国書道年表」 メモ

中国書法年表|書法迷

メモ。デザインがゴテゴテしていたり臆面なくパチモンを作ったりする中国ネットには、あまり期待していないが、それでも書道のことを調べるなら中国のサイトの方が断然情報量が多い。この「中国書法年表」、漢字の形の変遷がうまくまとまっている。心憎くもインタラクティブ(って言うんですか?教えてエライ人)な横スクロールだし。侮れない。

ご存知でしたか。楷書、行書、草書はほぼ同時期に発生したんですよ! 楷書って7世紀(唐代初期)には完成していたんですよ!

2014年12月12日金曜日

ブログに語学に論文に 僕がいつも使う便利なオンライン辞典 日英中

それぞれの言語で、使用頻度が多い順に並べてある。

日本語

Weblio類語・対義語辞典
私の場合パソコンでまとまった日本語を書くといったら大体ブログだが、そのときには類語辞典にはとてもお世話になる。とにかく語が豊富で、しかも一語一語にリンクが貼ってあるから、自分の言いたいことに近い言葉を見つけたら、それをクリックしてさらにしっくり来る言葉を探す。全くもって便利である。

Weblio辞書
国語辞典代わりである。

コトバンク
使い始めて日が浅いが、百科事典である。


英語

Weblio英和・和英辞典
分からない英単語を調べるのに使うことが多い。ネットで文章を読んでいて知らない語に出会ったら必ずここで調べる。「extrametricality」(余剰音節)のような言語学の難しい専門用語も載っているほどの充分な収録語数なので、普段使いには問題ない。いちいち入力欄にカーソルを持って行ってBackSpaceを押すようなことはせずとも、(アクティブならば)キーを叩くと同時に前の語が消えて次を調べられる操作性の良さも非常に快適だ。

The Free Dictionary
はっきり言って、最強のオンライン英英辞典である。Weblioのような国産英和辞典では満足な結果が得られなくても、ここならたいてい解決する。たとえば動画やブログを見ていて「from your POV」という表現の「POV」が分からなくて調べたとする。Weblioでは「フォークト・パリセード」というやたらと難しい語釈しか出てこないが、The Free Dictionaryなら屁でもない。「point of view」の頭文字だということがわかる。だがなんといっても、ここの魅力は類語辞典(Thesaurus)の豊富さだ。論文のような堅めの英語を書いていて、同じ語の反復を避けたいときや、ここのところをちょっと格好良く(=堅い表現で)言いたいというときには、本当に重宝する。教えちゃうのがもったいないくらいだ。

英辞郎
和英辞典と、例文検索で使うことが多い。検索結果がシンプルで見やすいのは嬉しい。例文の量と質が良いので、ある表現を英語にするのに、どの単語や言い回しを使えばいいのか調べるのにはここをよく使う。試しに「に関して」という表現を検索すると、Weblioと比べて、ヒット数がまるで違う。


中国語

Weblio日中・中日辞典
普段はこれで問題なし。

漢典
日中辞典でも出てこない単語があったら、ここに駆け込もう。ただし中中辞典なので、中国語をある程度知らないと読めない。それでもやはり、収録語数と使いやすさは圧倒的だ。Weblioでは出てこない「二愣子(èr lèng zi)」(そそっかしい)というような方言とかが載っている。しかも分からない単語や字をドラッグすれば、瞬時にポップアップが出てきて解説してくれる。この便利さには驚いた。

実はこの2つ以外にncikuというサイトがすごく便利で、一番よく使っていた。なのに最近どういうわけかサービスを停止して、LINEに運営が引き継がれた。そうしたら何だ。WindowsやGoogleのより1000倍頭のよかった手書き文字認識がなくなって、発音の分からい文字を調べるのがすごく面倒くさくなってしまったではないか。簡体字を使った単語には参考として繁体字も表示してくれて、ncikuは重宝していたのに、なぜいきなり姿を消したのか理解に苦しむ。おこである。


他にも便利な辞典サイトをご存知でしたら、是非コメントで教えて下さい!

2014年12月2日火曜日

絶対フォント感

印刷書体にかかわる仕事をしていると、フォントの一目見ただけで、その書体名を言い当てられるらしい。絶対音感ならぬ、絶対フォント感ということばが最近ツイッターで話題になった。



ネット界隈では、このようにフォントマニアは比較的簡単に見つけられる。一方、毛筆で書いた文字の書体を言い当てる人となると、これがなかなか見当たらない。蛇足だが、フォントの筆文字書体のことを言っているのではない。

そういう人がいないのではない。書にも絶対感覚がある。書道を数年間でもやっていれば、この字は◯世紀の中国の◯◯の刻石の隷書だ、とか、◯◯の書いた楷書だ、というようなことは簡単にわかる。人物や作品名までは特定できなくても、ある古い時代の字を見せられて、この楷書は何世紀頃のものに違いないというのは推定できる。さしずめ絶対書体感と名付けられようか。

ただ、昔の字をそのまま使ったり、似せて作ることは滅多にないので、街を歩いていてそういう経験をすることは少ないだけだ。ネット内外を問わず、一般に筆書は、個人の作家が書いたものばかりだから、出どころがはっきりした字にはなかなか出会わない。

試しに、私が気づいた例を挙げてみる。和風レストラン、藍屋のロゴは、2世紀、陝西省に建てられた石碑「曹全碑」の隷書を思わせる。「藍」の草冠が少し違ったり(下の画像1行目の「慕」を参照)、「屋」が扁平すぎたりなど細かいところに違いはあるが、全体の雰囲気は曹全碑の流麗とした書風を彷彿とさせる。

曹全碑 (C)書道ジャーナル研究所

神田の書道用具店、清雅堂(画像検索結果)の看板の文字は、同じく2世紀の陝西省に建てられた碑「石門頌」の隷書まさしくそのまんまだ。

石門頌 (C)「書道ジャーナル研究所」
さらに、今年の夏に東京国立博物館で開催された台北国立故宮博物院の展覧会のロゴは、筆書ではないものの、中国唐の時代、7世紀中頃に書かれた欧陽詢の楷書「九成宮醴泉銘」をもとにしているとしか考えられない。特にロゴの「宮」と、画像1行目の同字、また「博」や「物」の偏の縦画と、画像2行目「侍」の2画目を見比べてみると、そっくりだ。

九成宮醴泉銘 (C)書道ジャーナル研究所

フォントと違って書は日常であまり接しないので、フォントより一層マニアックな話題になってしまったのは否めない。