なぜドナルド・トランプの中国語名に「Telangpu」と「Chuanpu」があるのか
ドナルド・トランプの中国語名には、「唐纳德・特朗普(táng nà dé・tè lǎng pǔ)」と、「―・川普(―・chuān pǔ)」の2通りがある。
ファミリーネームのピンインを敢えて仮名におこすと、前者は「トゥーランプー」、後者は「チュアンプー」とでもなろうか。
どちらが元の語「trump」の発音に近いだろうか? 「te lang pu」の方は、元の子音がより忠実に残されているように見えるが、3音節もあり、元の1音節からはだいぶ長くなってしまってる。一方「chuan pu」の方は、より短い2音節であるものの、元の発音にはない「ch」という子音がある。
中国語名としてどちらが正式なのか、また、どちらが好まれているのかは、少し調べた限りでは私にはわかりかねる。voaでは「川普」が好んで使われているようだが、百度新聞では「特朗普」、「川普」が共に使われている。Wikipediaでは項目名において「川普」、「出生」の欄で「特朗普」が使われている。いずれにせよ、どちらの表記も浸透しているのは確かなようだ。
固有名詞に限らず、一般にことばを借用する時、もう少し正確には、言語Aの語Xを言語Bに音訳するとき、Xは、言語Bの音韻体系に従って多少の改変が行われる。
「トランプ」の例で考えてみよう。(アメリカ)英語における「トランプ」の発音のIPAで表すと、(方言さや厳密さは抜きにして)/trʌmp/となる。「子音・子音・母音・子音・子音」という音の連続である。しかし、中国語(普通話)において、/tr/、/mp/という子音の連続や、音節の最後に/m/や/p/が現れるようなことはあってはならない。つまり、中国語の音韻のルールに違反している。そのため、中国語の音韻規則にあわせて、音が挿入、消去、置換されたりするのだ。
「te lang pu」の場合、/t/のあとに母音を挿入し、/r/を音の近い/l/に換え、/p/の後にまた母音を挿入するなどしている。(もちろん、音韻以外に「漢字の意味」も忘れてはならない重要なファクターだが、ここでの趣旨と関係がないので考えないことにする。)
問題は「川普(chuān pǔ)」である。
/trʌmp/の頭の/tr/が、ピンインの[ch](日本語のチュに近い)に変わっている。実はこれ、英語側の音声学的なカラクリがあって、中国語話者には「チュ」のように聞こえるのである。
専門的には「摩擦化」という現象で、(もちろん方言にもよるが)英語の/t/や/d/に続く/r/は、そろぞれ「チュ」や「ヂュ」に似た音として発声されるのである。(参照)
例えば「try」、「drink」、「country」、などは、実際「チャイ」、「ヂンク」、「カンチュイ」のように発音される。(機会があったら、耳を澄ましてきいてみると良い。日本人もそうやって発音すると、ネイティブっぽくなる。)
同様に、/trʌmp/も「トランプ」ではなく「チャンプ」のように発音され、/tr/の子音連続を持たない中国人には「チュ」の類の音に聞こえるというわけである。
私も、上海に旅行した時、ホステルの女性が「train」と言う単語をほとんど「チャイン」と発音していたのをよく覚えている。
それに加え、「川普」という名前が浸透したのも、2音節という長さにカギがある。周知の通り、大半の人名が2音節である中国人にとっては、2音節というのは「座りのいい」リズムなのである。新聞の見出しや格言、キャッチフレーズに四字熟語を多用する中国語において、2音節の言葉はとても都合がいい。例えば「川普赢了(トランプが勝った)」というハッシュタグがweiboを賑やかしているが、「特朗普赢了」ではリズム的に間が抜けているというわけである。
英語側の摩擦化という音声現象と、中国語側の「2音節嗜好」という、2つの要因が互いに作用した結果が、「川普」という訳語なのである。
/trʌmp/の頭の/tr/が、ピンインの[ch](日本語のチュに近い)に変わっている。実はこれ、英語側の音声学的なカラクリがあって、中国語話者には「チュ」のように聞こえるのである。
専門的には「摩擦化」という現象で、(もちろん方言にもよるが)英語の/t/や/d/に続く/r/は、そろぞれ「チュ」や「ヂュ」に似た音として発声されるのである。(参照)
例えば「try」、「drink」、「country」、などは、実際「チャイ」、「ヂンク」、「カンチュイ」のように発音される。(機会があったら、耳を澄ましてきいてみると良い。日本人もそうやって発音すると、ネイティブっぽくなる。)
同様に、/trʌmp/も「トランプ」ではなく「チャンプ」のように発音され、/tr/の子音連続を持たない中国人には「チュ」の類の音に聞こえるというわけである。
私も、上海に旅行した時、ホステルの女性が「train」と言う単語をほとんど「チャイン」と発音していたのをよく覚えている。
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それに加え、「川普」という名前が浸透したのも、2音節という長さにカギがある。周知の通り、大半の人名が2音節である中国人にとっては、2音節というのは「座りのいい」リズムなのである。新聞の見出しや格言、キャッチフレーズに四字熟語を多用する中国語において、2音節の言葉はとても都合がいい。例えば「川普赢了(トランプが勝った)」というハッシュタグがweiboを賑やかしているが、「特朗普赢了」ではリズム的に間が抜けているというわけである。
英語側の摩擦化という音声現象と、中国語側の「2音節嗜好」という、2つの要因が互いに作用した結果が、「川普」という訳語なのである。
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